今から20年ほど前、イタリアのある教会に
7.5mX 6.4mの大壁画が描かれました。
その準備から完成まで、アシスタントとして参加した際、
備忘録として進捗状況を家族・友人に送ったメール
をもとにつづる制作秘話。
序 キリスト生誕2000年「聖年祭」
教会祭壇画 受注!
21世紀の幕開けは、25年ごとに行われるカソリックの「聖年祭」でもありました。
なかでも大きな区切りとなる、キリスト生誕2000年『ジュビレオ2000』のため、イタリア各地の教会では独自の記念事業が企画実行され、教会や収蔵品の修繕・修復はもとより、コンサート・公演会なども盛んでした。
そんな事業のひとつとして、シチリア・アグリジェントの聖ピオ10世教会から、祭壇壁画「キリスト磔刑と聖人図」が画家Chillura(キッルーラ)に発注されました。
私は1997年からフィレンツェに住み、師Chilluraのスタジオで絵の勉強中であり、プラート市のLaboratorio di Affresco Vainellaにおいて壁画テクニックを習得していたので、この一大事業にアシスタントとしてかかわることになりました。.
準備期間 2000年~2001年5月
図像・材質・問題解決の日々
当初「キリスト磔刑図」ということだけ決まっていました。その後キリストを取り巻く聖人を、画家と施主である教会の信者会・司祭が相談して決め、フィレンツェのアトリエで全体構成、モデルデッサン、壁画(フレスコ)技法での試作をスタート。
教会の創建は第二次大戦後で、壁の主材は鉄筋コンクリートでフレスコ技法には適さないことがわかりました。真正フレスコを事故無く後世に残すために、モルタル素材を変更する必要があります。
そこで描画用としてレンガ積みで内側にもう一枚壁を建てることにし、工事はアグリジェントで代々教会関係の建築と躯体修復を手がける職人ブオンテンポ親子がてがけることになりました。
モルタルに最適な砂を探してトスカーナ中をめぐりました。マザッチョの故郷サンジョバンニ・ヴァルダルノ近隣の河川採石場にも足を運び、「マッサチュッコリ」と聞けばその地へ赴きました。数種の石灰も、修復材料専門店と美術材料専門店から取り寄せました。
そしてスタジオでモルタルのベスト配合を探るため、繰り返しテストを行うと同時に、本画のモルタル用材料を発注、トスカーナからシチリアへ配送手配。リボルノ港で船積みされパレルモで上陸した砂と石灰ははトラックで運送パレットごと教会に輸送されました。
全体構成が決まった後、幅が約1.5m高さ1.2mほどある見本を本番と同じ技法で制作。本作が出来上がるまで教会内に展示し信者からの寄付を募りました。
***
準備段階で私は、実物大の下図(カルトーネ)の制作、試作のためのモルタルの配合と塗付などを手伝っていました。
いざアグリジェントへ 2001年5月
アグリジェント Wikipediaより転載(poudou99 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0
, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5569610による)
キリストと聖人10人+馬一頭の実物大下図(カルトーネ)の入った巨大な筒3本、画材一式、その他資料を持って現地に到着。
建築用足場3層のむこうに、下地塗り(アリッチョ)が終わった新しい壁ができていました。
早速赤系の顔料であたりをつける下書きシノピアをつけ、足場を下りて教会堂内からの見え方をチェック。人物像で微調整の必要があり、教会付属の一室でシノピア(壁)での変更をカルトーネ(紙)に反映させます。
しかし、夏は気温が高すぎて本画制作には不向きと判断し、一旦フィレンツェへ帰還しました。
そしていよいよ制作本番に・・・
教会壁画 制作秘話 2 へつづく
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